KMFの模擬戦闘用施設で、指示されるままにランスロットを駆る。
基本的には反応速度と移動速度の確認といった所だろうか。
だから難しい動きは無く、セシルの声に合わせて動かすだけなので、余裕がある。
スザクは視線を少し離れた建物の最上階の窓に向けた。
そこは演習場における司令室で、窓際には遠目からも解るほど大きなリアクションで、嬉々としてランスロット自慢をしているロイドの姿と、ランスロットの動きを見ながらロイドと話をしているルルーシュ、そして指示を出しているセシルと護衛たちが見えた。
それにしても、既に予定時間を大幅に過ぎているのだか、いいのだろうか?と思っていると、エナジー残量警告が表示された。
『演習を終了いたします。スザク君、お疲れ様』
ようやく終了の言葉が聞こえ、スザクはほっと息をついた。
トレーラー近くまでランスロットを移動し降りる。
指令室を見上げると、ルルーシュが楽しげな笑みを浮かべてこちらを見ていたので、こちらも笑顔で手を振ると、一瞬驚いたような表情を浮かべた後、困ったような顔で何か言っていた。
多分、馬鹿が、とでも言ったのだろう。
皇族に対して手を振るなんて、本来してはいけない事だから。
ランスロットを預けた後、スザクは駆け足で司令室へ向かったが、既に応接室の方へ移動しており、そちらへ行くよう指示された。向かった先の応接室では、ロイドが水を得た魚のように、ハイテンションでランスロット自慢を続けており、専門用語ばかりが飛び交うその会話を理解できているのは、セシルとルルーシュだけらしく、表面には出さないが、護衛は全員何処か疲れたような、頭が痛いというような表情をしていた。
実際にKMFに騎乗している者でも、ロイドの専門知識を織り交ぜた説明は暗号にしか聞こえないため、スザクも話しには全くついていけなかった。
「成程。では、開発予算があればエナジーウイングとその動力の小型化・・・つまりランスロットサイズのKMFでも長距離飛行は可能になると」
飛行に関しては本国にあるガウェインで実証済み。
一般的なKMFにそれらを取り付けるには、動力炉もそうだが色々とサイズに問題があった。ガウェインはエナジーフィラーを複数装着できるサイズだからこそ飛行も可能だが、1個しか装着できないランスロットでは、まだ長距離を飛ばすまでにはいかない。
「実際にはあと少しの所までいっているんですけどねぇ」
ある程度飛行する事は今でも可能だが、その後ランスロットを動かすだけのエナジーが尽きてしまうため、ろくな戦闘ができ無い上に帰還も出来なくなる。
それでは、何の意味もない。
「起動用と飛行やシールド用のエナジーは別に分けるべきだ。小型のものでもいいから、エナジーフィラーを2個装着できるようにならないか?緊急時には予備電源として使いたい。予算に関しては、私からも兄上に申請しよう」
「ホントですか!?やったー!期待してますよルルーシュ殿下」
動力の小型化・エネルギーの効率化さえ進めば、エナジーフィラーの小型化も、複数搭載も可能になりますよ~!
「私も期待をしている。飛行する能力を得られれば、戦闘だけではなく、災害が起きた時に小回りのきくKMFが被災地に降り立つことも可能になるからな。より多くの人命を救うことができる」
何せエリア11は自然災害の多い土地だ。
地震や河川の氾濫、あるいは津波による水害、大雪による雪害、ただ飛ぶしか能のないヘリで動くより、飛行能力のあるKMFが動く事が出来れば、どれほどの命を救えるか。
「災害救助ですかぁ?」
命を奪う兵器で、人命救助?変わってますねぇ?
ロイドは興味がないという様に口にした。
「そういう名目も付ければ、より兄上から資金を引き出せるだろう。場合によってはエリア11の予算も回せるかもしれない」
その回答に、ロイドは成程!と、満面の笑みを浮かべた。
どの道ランスロットで災害救助はよほどの事でもない限りないだろうが、争いだけでは無く平和利用のための研究だという名目ならば、より予算を引き出せるだろう。
「すまないな、随分と長居をしてしまった」
ルルーシュは、時計を見てそう切り出した。
既に予定していた時間を2時間近くオーバーしている。
時間にうるさいルルーシュにしては、あり得ないことだった。
「いえいえ、大変楽しい時間を過ごさせていただきました。ルルーシュ殿下、ぜひまた遊びに来てくださいね」
殿下ならいつでも大歓迎です!
社交辞令などしないロイドだ。
本気で言っているのだろう。
視察ではなく遊びに、となっているのはおかしな話しだが、ルルーシュは笑顔で「では、また時間を見て来よう」と頷いた。
「ところで・・・」
立ち上ったルルーシュは、視線を壁際で待機していたスザクへと向けた。
「枢木は、今日は非番という事で間違いはなかったか?」
「ええ、間違いありません。明日の朝までは自由時間ですよぉ」
なので、御用があるならどうぞ。こちらは一向に構いませんよ。
スザク君無しでやらなきゃいけないこと、た~くさん出来ちゃいましたしね!
にこにこ上機嫌でロイドはそう答えた。
「枢木。休暇中の所すまないが、今日は私に付き合ってくれないだろうか。明日の朝、責任を持ってこちらに送り届けよう」
この申し出を断る理由など無い。
「イエス・ユアハイネス」
スザクが笑顔で同意を示すと、ルルーシュも何処か安堵したように笑みを浮かべた。